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トマトの疫学研究

はじめに

食と健康について注目が集まっている現代、食品の三次機能について特に注目が集まっています。トマトが健康に良いらしいということを知っている人も多数いらっしゃるのではないでしょうか。「トマトの効果」についてインターネット上で検索すると、トマトがいかに健康に良いかまとめられたページが多数みつかります。例えば癌(がん)に効くとか、動脈硬化を予防するとか。しかしながら、トマトが科学的にどのような効果を有するのかしっかり紹介されているホームページはほとんど見当たりません。この記事では、2017年2月の時点で科学的にトマトがいかに健康に良いと考えられているのかを紹介します。

トマトの健康に関する機能性成分

食品は主に機能性成分を介して、私たちの健康に対して効果を発揮していると考えられています。よって、どんな食品がどの病気に効果があるなどの情報はこれらの機能性成分の効果を根拠に語られることが多いです。食品に含まれている機能性成分には、カロテノイドやポリフェノールといった種類が多いです。そしてトマトには実際に、沢山の種類のカロテノイドが含まれています。トマトの機能成分として、リコペン (リコピンとも呼ばれます)、αカロテン、βカロテン、ルテイン、ゼアキサンチン、β-クリプトキサンチンがあげられます。リコペンはトマトのカロテノイドのうち80-90%を占めており(引用1)、次に多いのがβカロテンで約9%を占めています(引用2)。これらの機能性成分は多くの動物実験や細胞培養実験で健康に対する効果は実証されています。しかしながら、動物実験や細胞培養実験では実際にヒトが摂取した際に効果があるかどうかはわかりません。そこで本当にヒトに効果があるのか調査する研究が、疫学研究や臨床試験になります。本記事では特にトマトの疫学研究について紹介します。

トマトの症例対照研究

 疫学研究にはいくつか種類があります。病気になった人の行動や状態を調べて原因を探る研究方法を症例対照研究と呼びます。トマトの場合、実際に病気になった人と病気になっていない人を比べた時、トマトを日常的に摂取していたのか比較したり、血中のリコペン量を比較することでトマトが健康に影響するかを推測することができます。それでは早速紹介していきたいと思います。
・1985-1991年にイタリアで行われた研究において、口腔癌、咽頭癌、食道癌、胃癌、大腸癌、直腸癌の発症率はトマトをよく食べている人でこれらすべての癌の発症率が低かった(引用3)
・1997-1999年にウルグアイで行われた研究では、リコペンとαカロテンの消費の高い人は胃がんが少なかった(引用4)
・オランダの65-80歳の入院していない人を対象に調査した結果、血中のリコペン、α-カロテン、β-カロテンが高い人は低い人に比べて呼吸機能が高い傾向があった(引用5)
・血中のリコペン量が低い男性ではリコペン量の高い男性に比べて、脳卒中や心動脈疾患の発症率が約3倍高かった(引用6)
・血清中のリコペンの高い人では動脈硬化の発症が抑制される傾向がみられた(引用7)

これらの報告をまとめますと、症例対照研究ではトマトには様々な部位の癌の予防効果、呼吸器機能改善効果、脳卒中予防効果、心臓病予防効果、動脈硬化予防効果があることが推測できます。症例対照研究によりトマト摂取が様々な疾患の発症に関与している可能性が浮かび上がりました。ただし本記事では紹介しませんでしたが、これらの疾患にトマト摂取量は関連がなかったという報告もあるのも事実です。症例対照研究だけではトマトが本当にヒトの健康に良いのか調べるには限界があります。それでは次にコホート研究という種類の疫学研究について紹介したいと思います。

トマトのコホート研究

病気になった人の原因を調べる症例対照研究の一方で、逆に普段からトマトを摂取している人はどんな病気になりにくいのか調べる研究をコホート研究といいます。実際にトマトを普段からよく摂取している人とそうでない人を対象に長期間追跡調査するため、症例対照研究に比べて時間とコストがかかるのが特徴です。その代りに症例対照研究よりもトマトが健康に良いのかより評価することができます。それでは紹介していきましょう。

・トマトソースを多く摂取している中年女性では心動脈疾患の発症率が低くなる(引用8)
・トマトやリコペンの摂取頻度の高い人では前立腺がんの発症率が低くなる(引用9)

このように、コホート研究でもトマトの健康に対する効果は報告されていることから、トマトは心動脈疾患や前立腺癌に対しては効果がある可能性が高いと思われます。ただ、注意してほしいのはこれらの試験は海外で行われたものであり、日本人で同じように摂取した場合同様の効果が期待できるかは保証はありません。トマトが私たち日本人の健康に良いのかはっきりさせるために、今後行われる日本人を対象にした疫学研究に期待したいですね。さて最後に、メタアナリシスという研究について紹介したいと思います。

トマトのメタアナリシス

 実際に疫学調査を行うと、効果がないという結果と効果があるという矛盾する結果が得られることがしばしばあります。これらの疫学研究で得られたデータを総括して再解析して、実際に効果があるのか調査する研究をメタアナリシスと呼びます。つまり、メタアナリシスで効果があると判断されている場合、科学的に十分に効果が期待できると言えます。
それでは紹介していきましょう。

・トマトやリコペンの摂取頻度の高い人では前立腺がんの発症率が若干抑制される傾向がある(引用10)
・トマトを高頻度に摂取することによって冠動脈疾患による死亡率は減弱する(引用11)
・トマトを含む食品の摂取により胃癌の予防効果が期待できる(引用12)
・血中のリコペン量が高い人では脳卒中の発症率が減少する(引用13)
・肥満女性におけるトマトジュースの摂取は肥満に由来した病気に対する予防効果がある(引用14)
・リコペンの消費と大腸がんの発症率には関連がみられなかった(引用15)

これらの報告から、トマトは科学的に胃癌、前立腺癌、脳卒中、肥満関連疾患に対して効果が期待できると考えられます。ただし、これまで得られている報告では大腸癌では効果があるとは言えないようです。このように、トマトは科学的にも様々な疾患に良い効果を発揮することが期待されているようです。

まとめ

これらのトマトに関する疫学研究の結果から、トマトは私たちの健康に良い効果を示すことが十分期待できます。本記事で紹介している研究はあくまで一部です。より多くの疫学研究が行われることで、トマトの効果についてさらに新しい事実がわかってくると思います。また、今後実際に人にトマトを摂取させるとがんの発症率や脳卒中の発生頻度が下がるかなどの臨床試験が行われると予想できます。すでに前立腺がんに効果があったという報告もあるようです。紹介させていただいた内容からわかるように、日常的にトマトを摂取することで私たちの健康に対する良い効果が期待できます。健康の為にトマトを毎日摂取する習慣をはじめてみてはいかがでしょうか。

引用1 Crit Rev Biotechnol. 2000;20(4):293-334. Lycopene in tomatoes: chemical and physical properties affected by food processing. Shi J, Le Maguer M.
引用2 Nguyen ML, Schwartz SJ (1999) Lycopene: chemical and biological properties. Food Technol 53:38–45 Ninu L, Ahmad M, Miarelli C, Cashmore AR, Giullano
引用3 Int J Cancer. 1994 Oct 15;59(2):181-4. Tomatoes and risk of digestive-tract cancers. Franceschi S, Bidoli E, La Vecchia C, Talamini R, D’Avanzo B, Negri E.
引用4 Eur J Cancer Prev. 2000 Oct;9(5):329-34. Dietary carotenoids and risk of gastric cancer: a case-control study in Uruguay. De Stefani E, Boffetta P, Brennan P, Deneo-Pellegrini H, Carzoglio JC, Ronco A, Mendilaharsu M.
引用5 Am J Respir Crit Care Med. 2000 Mar;161(3 Pt 1):790-5. Serum carotenoids, alpha-tocopherol, and lung function among Dutch elderly. Grievink L, de Waart FG, Schouten EG, Kok FJ.
引用6 Br J Nutr. 2001 Jun;85(6):749-54. Low serum lycopene concentration is associated with an excess incidence of acute coronary events and stroke: the Kuopio Ischaemic Heart Disease Risk Factor Study. Rissanen TH, Voutilainen S, Nyyssönen K, Lakka TA, Sivenius J, Salonen R, Kaplan GA, Salonen JT.
引用7 Am Heart J. 2002 Mar;143(3):467-74. Inverse association between carotid intima-media thickness and the antioxidant lycopene in atherosclerosis. Gianetti J, Pedrinelli R, Petrucci R, Lazzerini G, De Caterina M, Bellomo G, De Caterina R.
引用8 J Nutr. 2003 Jul;133(7):2336-41. Dietary lycopene, tomato-based food products and cardiovascular disease in women. Sesso HD, Liu S, Gaziano JM, Buring JE.
引用9 J Natl Cancer Inst. 2002 Mar 6;94(5):391-8. A prospective study of tomato products, lycopene, and prostate cancer risk. Giovannucci E, Rimm EB, Liu Y, Stampfer MJ, Willett WC.
引用10 Sci Rep. 2016 Nov 14;6:37091. doi: 10.1038/srep37091. Tomato consumption and prostate cancer risk: a systematic review and meta-analysis. Xu X, Li J, Wang X, Wang S, Meng S, Zhu Y, Liang Z, Zheng X, Xie L.
引用11 Atherosclerosis. 2017 Jan 13;257:100-108. doi: 10.1016/j.atherosclerosis.2017.01.009. Tomato and lycopene supplementation and cardiovascular risk factors: A systematic review and meta-analysis. Cheng HM, Koutsidis G, Lodge JK, Ashor A, Siervo M, Lara J.
引用12 Med Hypotheses. 2013 Apr;80(4):383-8. doi: 10.1016/j.mehy.2013.01.005. The role of tomato products and lycopene in the prevention of gastric cancer: a meta-analysis of epidemiologic studies. Yang T, Yang X, Wang X, Wang Y, Song Z.
引用13 Sci Rep. 2014 May 22;4:5031. doi: 10.1038/srep05031. Dietary and circulating lycopene and stroke risk: a meta-analysis of prospective studies. Li X, Xu J.
引用14 Br J Nutr. 2013 Jun;109(11):2031-5. doi: 10.1017/S0007114512004278. Tomato juice consumption reduces systemic inflammation in overweight and obese females. Ghavipour M, Saedisomeolia A, Djalali M, Sotoudeh G, Eshraghyan MR, Moghadam AM, Wood LG.
引用15 Nutr Cancer. 2016 Oct;68(7):1083-96. doi: 10.1080/01635581.2016.1206579. Lycopene Consumption and Risk of Colorectal Cancer: A Meta-Analysis of Observational Studies. Wang X, Yang HH, Liu Y, Zhou Q, Chen ZH.

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